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僕のママは

年明けの
とても気温の下がった日の
明け方にママの犬小屋で
僕らを産んだ…
僕にはお兄ちゃんと妹がいた。
ママは一生懸命僕らを舐めてくれた。
犬小屋の入り口にはビニールシートを
切って貼った様な風避けがあり、
中にはガチガチに凍った
いつから入っているか
何色だったのかも
わからないくらいの
毛布があった。
僕らは
その毛布の上で
ママから初めての
オッパイをもらった。
ママはあったかく柔らかかった…。
詩織ちゃんのママと同じだった。
その日のうちに
飼い主のおばあちゃんは
気付いて、ママと僕らは
家の土間で暮らし始めた。
だんだん大きくなって、
ママのオッパイでは
足りなくなり、
ふやかしたドッグフードを
もらって食べるように
なった頃。
突然お兄ちゃんが居なくなった…
ママはお兄ちゃんを
何日もウロウロと土間の匂いを
嗅ぎながら探していた…
かすれた鳴き声が
忘れられなかった…
お兄ちゃんは近所の
小学生の男の子のいる家に
引き取られていた…
それから数日経って
妹を抱きあげ
女のひとが連れて行った…
ママはお兄ちゃんの時よりも
もっと強く妹を呼んだ…
僕は最初、
少しだけ、
ママを独り占め出来る事を
嬉しく思った
その頃、ママと僕は
外の犬小屋へと
戻されました。
ママは鎖で繋がれていたけれど、
僕は放されたままで…
願わくば誰か連れ去ってくれたら…
自分で何処かに行ってくれたら…
という事だったみたい
でも僕はママから離れなかった
いつも一緒に居た…
何日か経って、
飼い主のおばあちゃんの
弟って人が
昼過ぎにトラックでやって来た…
家に入り、帰る頃には
もう薄暗くなっていた…
ママが凄く怒って
噛み付きそうだったけど
そのおじさんに
僕は抱えられ
トラックに乗せられた…
ママから
僕の姿が見えなくなってからは
悲しい遠吠えに変わった…
おじさんは、おばあちゃんに
「そしたら、帰り道何処か
ちゃんと拾ってもらえそうな所で
放すから…
雨になる前に行くわ…」
トラックは走り出した…
間も無く雷が聞こえ、
どしゃ降りになった…
僕は真っ暗な空家の前に
置き去りにされた…
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